自宅のパソコンを「将棋AIサーバー」にして、スマホから水匠で検討する — プログラミングを一行も書かずに

先日、毎日新聞の将棋チャンネルで公開された、藤井聡太名人と水匠開発者・たややん(杉村達也)さんの特別対談。その中で、藤井名人がこんな話をしていました。

自宅にあるパソコンを ShogiHome を配信するサーバーとして使って、スマートフォンから自宅のパソコンで動いているエンジンで検討ができるようなものを作ったりしました

そして渡辺明九段が、この対談を見てXでこう書いていました。「全部見たんですが、テンポが良くて勉強になりました。専門用語で分からないところがあるのが悔しい」と。

私はこの「専門用語が分からなくて悔しい」に、すごく共感しました。そして同時に思ったのです。その悔しさ、もう乗り越えなくていい時代になっているかもしれない、と。

なぜなら私は、藤井名人が作ったのとほとんど同じ環境を、プログラミングの知識ゼロのまま、AIに指示するだけで作ってしまったからです。この記事は、その完全な再現手順です。

スマホのブラウザで、自宅の水匠5が深さ35まで読んでいる。これが手のひらの中で動く
スマホのブラウザで、自宅の水匠5が深さ35まで読んでいる。これが手のひらの中で動く

この記事で作るもの

つまり「自宅に置いた高性能マシンの頭脳を、いつでもどこでも呼び出せる」状態になります。渡辺九段や藤井名人のように立派なパソコンをお持ちの方ほど、その性能を外からフル活用できる、というわけです。


使うもの

※「USIエンジン」とは、将棋AIソフトの共通規格のこと。水匠もやねうら王も、この規格で動いています。難しく考えず「将棋AIの本体」くらいの理解で大丈夫です。


Windowsでやる場合(実機で検証済み)

私はまずMacで作りましたが、その後Windows 11のパソコン(2017年のCore i7-8700K・メモリ16GB・グラボなし)でも同じ環境を作って、動くことを確認しました。渡辺九段や藤井名人のようにWindows機をお使いの方に、先に結論をお伝えします。

最短ルートは配布版です。 ShogiHome Lab のGitHubの「Releases」ページにWindows向けビルド済みパッケージがあり、

  1. 展開して ShogiHomeLab.exe(ランチャー)をダブルクリック
  2. ランチャーの「Engine Settings」からエンジンを登録
  3. 表示されたQRコードをスマホで読み取る(または http://localhost:8140 を開く)

これだけです(この配布版の手順は公式READMEに基づきます)。

私が実際に検証したのは、この後で説明するソースから作る方法のWindows版で、流れはMacと完全に同じでした(git → npm → uv。必要なものも同じ)。Windows特有の注意点は1つだけ:スマホなど他の端末からアクセスするには、Windowsファイアウォールでポート8140の受信を許可する必要があります(設定は「ファイアウォールとネットワーク保護」→「詳細設定」→「受信の規則」から。私はここで一度つまずきました)。

エンジンはAobaNNUEという選択肢も

Windows機には、水匠5ではなく AobaNNUE を入れてみました。2026年1月更新の評価関数で、無償公開されているものでは現在最強とされています(開発は囲碁・将棋AI研究の大ベテラン山下宏さん。GitHubの「AobaNNUE」で配布)。

しかも導入は水匠5より簡単でした。実行ファイルと評価関数が1つのzipにまとまっているので、展開してそのAobaNNUE_AVX2.exeをエンジンとして登録するだけ。8年前のCore i7でも毎秒442万局面を読んでくれて、正直、私のMacBook Airの水匠5より速かったです。古めのデスクトップが眠っている方、それはまだ最強クラスの将棋サーバーになれます。

Windows機で動くAobaNNUE。8年前のCPUで毎秒442万局面・深さ34まで読む
Windows機で動くAobaNNUE。8年前のCPUで毎秒442万局面・深さ34まで読む

私が実際にやった手順(Mac / ソースから作る場合)

ここからは、私が自分のMacBook Air(M1・メモリ8GB)で実際に動かした、コマンドを全部含む手順です。この操作自体、私はAIに「これをやって」と日本語でお願いしただけで、コマンドの意味は今も正確には分かっていません。それでも動きます。

手順1. 材料をダウンロードする

まず本体を、自分のパソコンに複製します。

git clone https://github.com/yoset77/shogihome-lab.git
cd shogihome-lab

手順2. 画面側(Webサーバー)を用意する

ShogiHome Lab は「画面を配る係」と「エンジンを操る係」の2つに分かれています。まず画面側から。

cd shogihome
npm ci
cp .env.example .env
npm run build

つまずきポイント: この作業には新しめの Node.js(v24以上) が必要でした。古いままだとビルドで止まります。私は node@26 を使いました。

手順3. エンジン側(ラッパー)を用意する

次に、水匠を操る係の準備です。

cd ../engine-wrapper
uv sync
cp .env.example .env

手順4. 水匠5を登録する ← ここが一番大事

engine-wrapper フォルダの中に engines.json というファイルを作り、自分の水匠の場所を書きます。私の場合はこう書きました(パスは自分の環境に合わせて変えてください)。

[
  {
    "id": "suisho5",
    "name": "水匠5",
    "type": "both",
    "path": "(水匠5の実行ファイルのフルパス)",
    "options": {
      "EvalDir": "(nn.bin が入っているフォルダのパス)",
      "USI_Hash": 1024,
      "Threads": 4,
      "USI_OwnBook": false
    }
  }
]

最大のつまずきポイント: EvalDir(評価関数フォルダの指定)を忘れると、エンジンが起動しません。 「エンジンが見つからない」と出たら、まずここと path を疑ってください。USI_Hash はメモリの割り当て量(MB)で、私のMacはメモリ8GBなので1024(1GB)にしています。潤沢なマシンならもっと増やせます。

手順5. 起動する

2つの係を、それぞれ起動します。

# エンジン側
cd engine-wrapper
uv run engine_wrapper.py

# 画面側(別のターミナルで)
cd shogihome
npm run server:start

パソコン自身のブラウザで http://localhost:8140 を開いて、いつものShogiHomeの画面が出れば成功です。

パソコンの画面。水匠5が毎秒約400万局面を読みながら、候補手を3つ表示している
パソコンの画面。水匠5が毎秒約400万局面を読みながら、候補手を3つ表示している

スマホから使えるようにする(Tailscale)

同じWi-Fiにいるなら、パソコンのIPアドレス(192.168.〇〇 のような番号)を調べて、スマホのブラウザで http://(そのIP):8140 を開けば、もう使えます。

外出先からも使いたい場合は、Tailscale という無料VPNを、パソコンとスマホの両方に入れて同じアカウントでログインします。すると、どこにいてもパソコンに http://(Tailscaleのアドレス):8140 でつながります。私はこれで、電車の中からでも自宅の水匠を呼び出せるようになりました。

スマホから見た検討画面。パソコン版とまったく同じUIがそのまま手のひらに乗る
スマホから見た検討画面。パソコン版とまったく同じUIがそのまま手のひらに乗る

棋譜を読み込むには

画面左の「ファイル」ボタンから、

スマホから、母艦PCに保存した棋譜ファイルを開いているところ
スマホから、母艦PCに保存した棋譜ファイルを開いているところ

つまずきポイントまとめ

作っている途中で私が実際に引っかかった点です。


本題 — 私はコードを一行も書いていません

ここまで長々とコマンドを並べてきましたが、白状します。

私はこのコマンドの意味を、正確には理解していません。 JSONの書き方も、Node.jsが何なのかも、きちんとは説明できません。私がやったのは、AI(Claude)に「藤井名人みたいに、スマホから水匠を使える環境を作りたい」とお願いし、出てきた指示をその通りに実行しただけ。エラーが出たら、それをそのままAIに見せて「直して」と言う。その繰り返しでした。

対談の中で、たややんさんが「私ももう(プログラムを)全然書いてないです。全部書いてもらって」と笑い、藤井名人も「私も生成AIを、コーディングが8割くらい」と応じていました。まさにあれです。知識がなくても、日本語で伝えれば、いい感じに作ってもらえる時代。藤井名人の言う「バイブコーディング」を、私も体験しました。

渡辺九段。「専門用語が分からなくて悔しい」——その悔しさは、もう乗り越える必要がないのかもしれません。分からない言葉が出てきたら、AIに聞けばいい。作りたいものは、日本語で頼めばいい。九段のパソコンは、藤井名人のそれに勝るとも劣らないはずです。あとは「作ってみよう」の一歩だけ。

この環境、本当に、誰にでも作れます。


この記事の手順とスクリーンショットは、すべて筆者がMacとWindowsの実機で実際に動かして確認したものです。ShogiHome Lab をはじめ、オープンソースで素晴らしいツールを公開してくださっている開発者の皆さまに感謝します。